クリスマス斬首

 龍馬には、なんとしてでも眠って貰わねばならない。
 何故なら、以蔵には本日サンタクロースになるという大事な役目があるからだ。
 サンタクロースというのは、人目についてはならぬものであるらしい。
 誰にも見つからずに速やかに家屋に侵入し、目的を遂げる。
 なるほど。
 マスターが以蔵に頼むのもわかる気がする。
 以蔵はアサシンだ。
 生前も似たような夜討ちを繰り返し、天誅の名人と京を騒がせた人斬りだ。
 だから「その話、引き受けた」とにちゃりと笑って見せたわけなのだが、ここにきて問題が一つ浮上した。
 龍馬だ。
 以蔵の古馴染みでもある坂本龍馬が、今日に限って――いや、この男が以蔵と仲良くしたがるのは別に今日だけでもないのだが――しつこく、以蔵につきまとっている。

「龍馬、わしは眠い」
「そう? それなら僕も今日は泊まっていってもいいかな」
「駄目じゃ」
「どうして? いつもならいいって言ってくれるのに」
「駄目なもんは駄目じゃ」
「理由を言ってよ」
「………………」

 むぐりと以蔵は口元をへの字にする。
 嘘をつこうかとも思ったものの、この男は変なところで聡い。
 以蔵の嘘は、大概見抜かれてしまう。

「ねえ、以蔵さん」
「なんじゃ」
「もしかして、他に何か、予定でもあった……?」

 どきりと、する。
 予定なら、あるのだ。
 サンタクロースとして、暗躍せねばならない。
 何をするのかはまだわかっていないが、マスターには日付が変わる頃に部屋に誰にも見つからずにこっそり来てほしいと言われている。
 時計は、もうすぐ深夜だ。
 約束の時間がきてしまう。
 それなのに、頑固で甘えたな末っ子気質を発揮した男が以蔵を離さない。

「にゃあ、以蔵さん、教えとおせ。誰と、あう約束をしゆう」
「…………おまんには関係ないろ」
「あるよ、僕は、以蔵さんの幼馴染みだ」
「それがなんじゃ」
「以蔵さんの……、その、クリスマスを過ごす相手が誰なのか、ちゃんと見届けなきゃ」
「ハア???」

 クリスマスというのは、幼馴染みに見張られながら過ごさなければならない日なのか。
 誰かと過ごすのに、何か問題があるイベントなのか。
 確かにマスターにも誰にも見つからないようにこっそり部屋に来るようにと頼まれている。

「………………」

 ちろ、と龍馬を見上げる。
 酷く、思い詰めたような、どこか焦燥にも似た色がその双眸の奥で揺れている。
 どうやら、マスターが以蔵に頼もうとしているのはよほどのお役目であるらしい。
 この男に、こんな顔をさせてしまうほどには、大事なのだろう。
 だがそれをマスターは以蔵に頼もうとしているのだ。
 以蔵には、その期待に応える義務がある。
 マスターのためならば、いくらでのこの手を汚す覚悟がある。
 この人の良い幼馴染みに何と言われたって、やり遂げなければならない。
 だから、ふと、首元の襟巻きをいつもの癖で弄るように見せかけて、わざとゆるめたそれがしゅるりと床に落ちるままにした。

「あ、落ちたよ」

 親切にも、床の上でぐるりと蛇のようにとぐろを巻いた襟巻きを拾おうと龍馬が前屈みになる。
 まるで差し出すように、以蔵の目に露わになる龍馬の項。
 そこにめがけて、どすっと力一杯手刀を叩き込んだ。
 ウッ、と息を詰めるようなうめき声を一つあげて、ぐたりと白の長躯が床に崩れる。
 そのだらりと力の抜けた腕を引いて身体を起こし、ベッドへと運んでやった。

「すまんにゃあ、龍馬。これも仕事じゃき」

 ふっ、とさみしげな笑みを口元に浮かべて、以蔵は回収した襟巻きで口元を隠す。
 マスターが以蔵に何をさせようとしているのかはわからないが、立派にやりとげて見せる。そう心に誓って以蔵は静かにマスターの部屋へと向かい―――これ、以蔵さんから龍馬さんにプレゼントしてあげてね、と美味しい土佐の地酒を二升ほども譲られてぽかーんとするのはそれから数分後のことである。
 仕方が無いので、ベッドですややかに眠る男の腕に詫び代わりに酒瓶を二本抱かせることにした。

 

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