遠くで星のようにちかりと何かが瞬いた。
それが遥か遠くより、マスターを狙い撃つ呪詛が放たれた残滓であると理解した時にはもう龍馬の体は動いていた。
「マスター!」
何が起きたのかわかっていないように瞬く子どもの前に身を躍らせ、肩を抱いて引き寄せる。
理想としては後半歩。
射線から完全に逃れられれば素晴らしかったが咄嗟の行動のわりには及第点だろう。
ずぐりと左肩の裏あたりに力強く殴られたような熱を感じる。
これで貫通したあげくにマスターに被弾なんぞさせようものなら物笑いの種にもならない。
白手套に包まれた手で射出孔となりそうな辺りを無理くりに抑え込む。
肉を裂きめり込んだ呪詛の弾丸がめりりと掌に潜り込む感触に眉を寄せる。
魔力を手の甲に寄せつ、ぐ、とその掌を握りこむことでなんとかその呪詛がマスターの柔いひとの身体に届くのを阻止することに成功した。
は、と息を吐く。
良かった、と安堵の言葉を漏らす先で、やや見下ろす角度で茫然と瞬く子どもがいた。
「龍馬さん……!!」
悲鳴のような声が上がる。
大丈夫だよ、と言おうと思ったのに、ばちりと爆ぜた軋むような痛みに、ぐぅ、と喉の奥で唸るような声が漏れる。
霊基の軋むような痛みは、呪詛による汚染のせいだ。
人の身であればひとたまりもないが、龍馬のような英霊であれば耐えられないこともない。
とはいっても、戦線に立ち続けることは叶わない。もうちょっとうまくやれればな、と苦笑しかけたところで。
「スベタァ!」
吠える声が、響いた。
ひどく獰猛な獣のような声だ。
だんと踏み込む足は空を駆ける隼のごとく。
霞み始めた視界の端で、龍馬の脇を低く身を落としてすり抜けていく影がある。
「いぞ、」
さん、と最後まで呼ぶ前に舌が縺れる。
立っていられずに膝をつきながらも、振り仰いだ先で龍馬はとんでもないものを見た。
「ぶッ飛ばす!」
「任せちょき!」
こちらに向かって凄い速度で飛んでくるお竜と、地を滑るように駆ける以蔵が上下に重なったと思ったとたん、二人がぐるりと位置を入れ替えたのだ。
呪詛のせいで何か幻覚でも見たのかと思った。
むしろそう思いたかった。
が、目の前のマスターが「ひえっ」なんて悲鳴をあげたもので、どうやら残念ながらそれは幻覚ではなかったらしい。
二人は上下にすれ違いざまに。
お竜が力任せに以蔵の肩を鷲掴み、ぐるりと上下を入れ替えるような一回転で遠心力まで味方につけて、そのまま以蔵をぶん投げたのだ。
変形型地獄車とでも言うべきか。
ヒトガタ宝具ならぬヒトガタカタパルトから放たれた以蔵は、そのまま遥か彼方、龍馬に呪詛をぶち込んだ敵にいる方向に向かって放たれた矢のように一直線に飛び――遠く、遠くでずぱぁんと血煙にも似た黒霞が上がるのが幽かに見えた。
「……え、えええ」
なんだその意気の合い方は。
今までそんなところ見せたことなかっただろう。
「大丈夫かリョーマ!」
何事もなかったかのように泣きだしそうな声音で気遣うお竜に、龍馬は仕方なくそんなツッコミを飲み込んで、「大丈夫だよ」と応えることしかできなかったのだった。
