それはある日のことだ。
一緒にご飯に行こう、と誘われて以蔵が龍馬につれていかれたのは、立ち食いでステーキが楽しめるという店だった。
開幕いきなりステーキが食べられるという最近巷で流行り始めた店である。
「僕はリブロースステーキを400gで」
「わしはヒレステーキの300gじゃ」
注文を済ませてから、二人並んで紙のエプロンを広げて装着する。
巨大な肉の塊を豪快に牛刀が切り取っていき、ぽいと放られた肉が焼かれるべく調理台へと消えていく。
「焼き加減はどうしましょうか」
「僕はミディアムレアかな。以蔵さんはレア?」
「おん」
そんなやりとりの後、じゅうじゅうと肉を焼く音が響き始める。
鉄板の上で次第に焼けていく肉を眺める二人の間に会話はない。
ただただ、肉が焼けるのを待っている。
ぱらぱらと塩こしょうが踊り、じぅうう、と鉄板に染み渡るようにしてソースが上から注がれる。
そうして、どん、と。
二人の前に皿が供される。
「…………」
「…………」
二人、無言でぱしりと手を合わせ。
いざ、肉を喰らうしばしである。
■□■
「…………、」
ほう、と満足げな息を吐いてちらりと以蔵は自分の皿を見下ろす。
すでに皿は空である。
付け合わせの野菜が、申し訳程度に残っているだけだ。
それから腹をちょろりと撫でる。
まだもう少し、入るような気はしている。
だが、おかわりをするほどではない。
後一口か。
後、二口ぐらい。
もう少しだけ、肉が食べたいような、腹八分目で抑えておくべきか、と迷うところだ。
「…………」
ちらり、と隣を見る。
隣の男はとっくの昔にオカワリに挑んでおり、しかもそのオカワリもすでに半分が消えている。
すらりとした細身の男の、一体どこに400gもの肉が収まったというのか。
それどころかなおもその腹の内にしまわれていく肉は増えていくばかりである。
じ、と眺めていれば、あー、と大口を開けた男と目が合った。
ほんのりと芯に赤みの残った大きく切り分けた肉を豪快に口の中に詰め込み、もっもっも、と咀嚼を繰り返し、ごっくん、と喉仏が上下する。
それから、肉の脂につやりと光る唇を舌で舐め拭って、それからまたナイフでぎちぎちと肉を切り取って。
「はい」
「おん」
当たり前のように目の前に差し出されたフォークに、以蔵は口を開く。
一口分、切り取られて差し出される肉。
もぎゅり、と頬張って、歯ごたえのしっかりとした赤身の肉を堪能する。
以蔵が頼んだヒレステーキよりも、脂の旨味がこってりと乗ったボリュームのある味わいだ。
「もう一口いく?」
「これで満足じゃ」
「そうか」
「おん」
また、隣の男は肉を切り分け、口に運ぶ。
がつがつ。もぐもぐ。むしゃむしゃ、ごくん。
手つきは決して乱暴というわけではないのに、どこかその食事風景はワイルドだ。
食べているのが肉だからそんな印象を受けるのだろうか。
食後の心地よいけだるさにテーブルに肩肘をついて。
以蔵はのんびりと肉を喰らう幼馴染みを眺めるのだった。
