■設定画
■第一部 姫の嫁入り
1 鏡の前
ぱさり、と鏡の前で布を落とす。 露わになったのは、華奢で未成熟な少女の身体だ。 未だ女らしいふくよかな曲線はなく、肋にはうっすらと骨が浮いている。 風呂上りの白く滑らかな肌には傷一つなく、未だしっとりと潤っている。 女としての魅力は未だ花…
2 壁の花
デビュタントの夜は恙なく迎えられた。 父親に手を引かれ、リリィが会場に足を踏み入れたとたんに周囲からはほう、と感嘆の息が零れ落ちる。 華奢なデコルテを見せる白のドレスはシルク所以の上品な艶を煌めかせ、同じ素材で作られた二の腕までを覆う同色…
3 きれいめな廃墟
暗い夜道を、滑るように走る黒塗りの車が一台。 運転しているのは、ベル伯爵主催のパーティーで蓮糸楼のオーナーのふりをしていた影武者の青年だ。 後部座席には、本物の蓮糸楼のオーナー、皓月が窓に凭れるように座ってネクタイを緩めて一息ついている。…
4 夫となる男
なんやかんや、話はまとまったらしい。 リリィにはよくわからないままに、蓮糸楼のオーナーである男とリリィの結婚は無事に父親の同意を得て正式に成立したようだった。 パーティーの夜以降も、やはり男の肩書が気になるのか多少渋る様子を見せていた父親…
5 夢かもしれない
『この後はそうだね、汗を流したら――…新婚らしく一緒に寝ようか』 皓月にそう言われた後のことを、リリィはあまりよく覚えていない。 頭の中が真っ白になって、「わかったん」ととりあえず返事を返して、アイスのカップを片づけて、自室へと戻った。 そ…
6 それぞれの「選択」
時計の針が12時を少し過ぎたころに、まずガベイラからそろそろ迎えにいくね、との連絡がリリィの傍らにあった貰ったばかりの端末に届いた。 おおよそその連絡から15分が過ぎた頃には、ガベイラは皓月の私邸に到着していた。 それじゃあ行こうか、とリ…
7 騒がしい足音
それからの数日は、穏やかに過ぎていった。 週末には三人で買い物にもいった。 家具を少しずつ選んで、リリィの部屋はゆっくりとリリィの部屋らしくなっていった。 真っ白だった壁紙は、淡くピンクがかったセピアに。 不愛想なまでに清潔な白い書き物机…
8 リリィの決断
ふと、ガベイラがそんな風に何気なく口を開いたのはいつものように昼食後にリリィを自宅まで送り届けた際のことだった。 恒例のセキュリティチェックも終わって、後はリリィが玄関のロックを確認するだけ、というタイミングでのことだ。「ベル家から君宛に…
■第二部 ガベイラくんの誤算
■短編