ばいおれんすせっすす 

 
 それは取引の帰りのことだ。
 荒くれものが多く集う港の近くのバーにて商談を終わらせた男、坂本龍馬は雑然とした―――それでいて全体的な雰囲気は酷く調和がとれている――――バーの人混みをかき分けるようにして出口へと向かう。
 いかにも肉体労働に従事しているのだというようによく鍛えられた二の腕を晒し、作業着姿のまま馬鹿でかいジョッキを傾ける男たちの、場違いなほどに身なりの良い龍馬を見る胡散臭げな視線がどすどすと突き刺さっているわけだが龍馬に怯んだ様子はない。
 相手にする気がないのだというほど小馬鹿にしているわけではない。
 ただただ泰然と、酔いどれたちを縫って歩いている。
 店の出口にさしかかったところで、龍馬は頭に乗せていた白の中折れ帽を片手で軽く浮かせて見せた。
 酷く賺した仕草だが、龍馬がやると不思議としっくりと来る。

「それじゃあ、また。今日は会えなかったけれど以蔵さん、ボスにはよろしく伝えてくれると、」

 ありがたい、と最後まで言うより先に。
 横合いからすぅと伸びた腕が、龍馬の腕を捕まえるや否や強く引き寄せる。
 おわ、とバランスを崩した長躯は手を引かれるままに壁に突っ込みかけたものの、それは杞憂に終わった。壁でしかないと思われていた場所はぱっくりと避け、その向こうには薄暗がりが広がっている。
 そんな隠し部屋の入り口にて、にんまりと双眸を細めて笑うのは龍馬が会い損ねたはずの組織のボス、岡田以蔵だった。
 前につんのめり、蹈鞴を踏んだ龍馬の背後で音もなくすぅと隠し扉が閉じる。
 音はほとんどなかった。
 ただ、外からの音と差し込む光とが遮断されたことにより、ああ閉まったのかと察したに過ぎない。
 薄暗がりの中で、龍馬はゆっくりと闇に目を慣らすようにして瞬きを重ねる。
 ほのかな埃の香りと、濃密な酒精の香り。
 古く、それでいて芳醇だ。
 酒蔵、だろうか。
 こんな部屋があるなんて、今まで知らなかった。
 壁際にはインテリアも兼ねて小ぶりの酒樽がいくつも積まれ、部屋の奥にはどっしりとしたライティングデスクが設置されている。光源は、その机に置かれた古めかしいランタンだ。本物の火を使っているからか、ゆらゆらと壁に映し出された影が踊るように揺れる。影になってわかりにくいが、机の後ろには壁に接する形で細い棚が置かれており、そこには何冊もの年季の入った分厚い帳簿が鎮座しているのが見えた。

 ―――なるほど。

 龍馬は内心納得する。
 ここはおそらく、悪名高き禁酒法時代にでも作られた部屋なのだろう。
 密造酒を隠し、管理するための部屋だ。
 
「わしに顔も見せんと帰ろうとするなんち随分と薄情じゃのう」

 揶揄するような声が耳朶を擽るのに、自然と口元が笑みの形につり上がる。

「顔を出さなかったのはそちらじゃないか、ボス」

 揶揄うように、ビジネス上での呼び名で呼んでやれば目の前の顔が厭そうに歪むのがわかった。馬鹿にされた、とでも思ったのだろう。
 腕を掴んでいた手がするりと這い上がって胸ぐらを掴み、次の瞬間にはがだんッと重々しい音をたてて龍馬の身体は壁に叩き付けられていた。
 かふ、と衝撃に押し出された呼気が唇から零れる。
 そんなあえかな吐息すら奪うように、ぐんと伸び上がった男に唇を奪われた。
 文字通り噛みつくような口づけだ。
 というか、これは間違いなく、咬んでいる。
 がぶ、がぶ、がぶ。
 唇に歯をたてて、ぐ、と抗議めいた呻きが漏れた隙間を狙ったように舌が滑り込み、龍馬の舌を絡めとって引き出して、がぶりとまた咬む。
 唇やら舌やらがぴりぴり痛むのは容赦のない噛みつきに柔い肉が傷を負ったからだろう。ああもうと文句を言えば、咬み千切らんだけ感謝せえ、なんてロクでもない返事が返ってくるのはよく分かっている。正直、飽きるほどに繰り返したやりとりだ。
 だから。

「……ッ、」

 攻撃は最大の防御なりとは良く言ったもので。
 やり返すのが、一番手っ取り早い。
 己の唇を貪る男の頬に手を滑らせ、そのままぐしゃりと黒の癖のある髪の中に手を差し入れ、もっとと強請るように頭を惹き寄せる。
 ぬちりと舌肉が絡み合い、鬩ぎ合い、今度は龍馬が押し勝つ。
 肉厚の舌を腔内にねじ込んで、噛みつこうと試みる男の弱い上顎をぞろりと舐めあげる。ふ、と零れる震える吐息。噛みつく力が弱くなる。よしよし。上手くいったと内心気を良くして腔内を舐り倒しながら己を壁際に追い詰めていた男の腰から、下肢へとするりと掌を滑らせる。
 決して女性のように柔らかでも触り心地の良いわけでもない脚だ。
 だが、龍馬にとっては一等そそる形をしている。
 容赦なく敵を蹴り散らし、獣のように地を駆ける脚だ。
 がっしりと堅く鍛えられた太股の形を辿るように撫でながら腿の裏を掬うようにぐ、と持ち上げる。

「――――」

 意図を察したように、口づけの熱に蕩けたように潤む琥珀の双眸に微かなわらいの色が載ったような気がした。
 すり、と持ち上げられた脚が媚びるように龍馬の腰を撫で擦り、絡み付く。
 良いこ、と褒めるように弱い箇所を舌で舐めてやれば、満足そうに金の瞳が細くなる。
 これならば。
 嗚呼、これならば。
 背後の、ライティングデスクまでの距離は歩数にして5から6。
 押し切るようにして縺れこめば決して辿り着けない距離ではない。
 いけるか。
 自発的に腰に絡められた男の脚の腿からするりと掌を滑らせ腰へと回し――ぐぅと強く惹き寄せると同時にそのまま大股に前に一歩、踏み出す。
 自然、不安定に身を折られる形になった男の喉が苦しげに喘ぐのを宥めるように意図して柔らかな口づけを与え、耽溺を試みる。どうにか丸め込みたかった。甘ったるいキスにどうか絆されてくれと思いながらの特攻は、二歩目すら許されなかった。
 ぷは、と息継ぎめいて離れた唇、赤く濡れて、つ、と互いの唇を繋ぐ銀の糸が光を弾いて揺れる様なんて下肢にぐっとくるほど蠱惑的なのに、それでもその唇を彩るのは物騒なまでに好戦的な笑みだ。
 そんな顔、久々の逢瀬を交わす恋人に見せる類いのものではない。
 それは、トドメを刺す寸前の獲物に見せるものだ。
 胸板の厚みを確かめるように撫でる指先には多少そそられたものの、警戒の色を双黒に滲ませる龍馬に、男、龍馬の恋人でもある以蔵は、とてもとても、愉しそうに笑った。
 ぐうと胸ぐらを強く引かれる。
 引き寄せる、というよりもほぼほぼ真下に垂直に引き落とすような角度だ。
 それと同時に、腰に絡み付いていた以蔵の脚が跳ね上がる。
 いっそのこと、引きずり落とされるままに床に倒れてしまえばまだ良かったのかも知れなかった。反射的に堪えてしまったのが、堪えられてしまったのがかえって良くなかった。龍馬の首に体重をかけてぶら下がるようにして跳ね上がった以蔵の脚が撓る鞭のように龍馬の首に絡み付き、そこを支点に以蔵が上身を持ち上げる。ぐらりと勢いよく移動する重心に振り回されて龍馬の身体が揺れる。そんな揺らぎすら自らの良いように利用して、まるで虚空で泳ぎでもするように以蔵はその身をくねらせ―――嗚呼これ下手に抵抗すると首が折れるやつだな、と悟って龍馬は渋々と身体の力を抜いた。
 いっそ素直に投げられた方が怪我をしない、ということもあるのだ。
 そう小柄でもない男二人の体重を乗せた全力のルチャの大技に身体がぶわりと浮く感覚がして、視界の上下が引っ繰り返る。浮遊感は一瞬のことで、上手く受け身を取ろうとしたもののそもそもこういった技は狭い室内でやるものではない。壁際に積まれていた樽の中に背中から叩き付けられることになって、ぐぅ、と龍馬は痛みと衝撃とに息を詰めた。
 びちゃびちゃと背中が濡れそぼる。
 甘く、濃厚な酒精の香りが強くなる。
 割れた樽の山の中に埋もれるようにしながら、龍馬は満足げにニヤニヤと笑う男を見上げて顔をしかめる。

「こン、わりことしが」
「えいザマじゃ」

 ふはは、と笑いながら男が龍馬の上に馬乗りになる。
 ぐったりと樽の山に身体を沈めたままの龍馬のベルトに手をかけ、手際よくしゅるりと引っこ抜き、ぽいと背後へと放る。
 あんまりにも無造作に放り投げたせいか、背後でがちゃんと何かが割れるような音がした。それにあーあ、と思いながら、龍馬は以蔵を見上げる。
 龍馬を見下ろして、酷く満足げだ。
 カチャカチャと、ズボンのホックが外されて前立てを暴かれる。
 さすがにするりとそこから潜り込んだ指先が、龍馬自身の形をなぞるように辿られると低い呻り声にも似た声音が喉奥でへしゃげた。

「はッ、元気なモンじゃのう」

 嘲るような声音に、眉根を寄せる。
 元気で何が悪い、というのが正直な感想だ。
 久方ぶりの恋人との逢瀬で、あれだけ熱烈な口づけをかわせば勃つに決まっている。
 その後何かよくわからない攻防があったのはさておき。
 下着の下で存在を主張する龍馬の逸物を指先でするすると撫でる男の愛撫は意外に思えるほどに優しい。狭い室内でルチャの大技をぶちかまし、恋人を首投げで壁に叩き付けた男の所業だとはとても思えない。
 されるがままになりながら、そろ、そろ、と龍馬は静かに手を動かす。
 別段、このままでも良いのだ。
 以蔵だってその気があることには違いはない。
 以蔵主導でことに及んだって、別段構いはしないのだ。
 お互い好きあっていて、気持ちの良いことは好きで、セックスは対話の一種で。
 ただそれが互いにちょっと肉体言語に頼り過ぎているというだけで。
 だから、まあ。
 セックスが対話だというのならば一方的にやられっぱなしになるのも面白くないなと思ってしまうのは、まあきっと、仕方のないことだ。

「……おかげさまで、」

 低く、言葉じりの掠れた熱の蕩けた声が以蔵の軽口に応じる。
 そして、ね、のタイミングで馬乗りになっていた以蔵の足首をがっしりと掴んで思い切り引っこ抜いた。先ほどの以蔵とはまるで逆で、真上に引き上げるような軌跡で片足を掬いとりながら、もう片手で以蔵の顔面を鷲掴む。腹筋の力で上身起こしながらながら、そのまま前のめりに以蔵の身体を床に叩き付けた。
 がん、だとか鈍い音がして二人の体勢が入れ替わる。

「ありゃ、以蔵さん?」
「――――……、」

 返事はなかった。
 思い切り頭から床に落としたこともあり、軽く脳震盪でも起こしているようだった。
 伏せがちの瞼の下から、光のない金の双眸が夢見るように微かに覗いている。
 組み敷いた身体からも今はぐったりと力が抜けている。
 チャンスである。
 いや、我ながら強姦魔の所業だな、と思いはするのだけれども。
 これまでにも何度も似たようなことを繰り返してきて、馬鹿力の龍馬が手加減をし損ねて以蔵の意識を刈ってしまう、ということが何度かあったのだ。
 最初のうちはそれこそ大慌てで介抱などしたわけなのだが、毎回毎回そこでこっ酷い反撃を喰らう。
 基本的にお互い致命傷は避けるようにしているし、後を引くような怪我はさせないようにしようというのが不文律としてありはするのだが、前回など小さくて薄いペーパーナイフで思いっきり脇腹を刺された。全くもって酷い話である。
 刃先が龍馬の肉厚な筋肉を裂いて内臓に届くほど長くなかったことと、綺麗があんまりにも良かったせいで逆に傷口がくっつくのも早く、大事には至らなかったのだが。今でも龍馬の脇腹にはうっすらと薄赤い線のような疵痕が残っている。
 どうにも以蔵にとって、荒事――と書いて情事と読む――の間に向けられる思いやりだとか優しさというのは行為に水を差されるような心地がするものらしく、より過激な反撃の呼び水となってしまうのだ。
 というわけで、以蔵の様子を注意深く伺いながらも龍馬は以蔵の下肢を覆う衣服を剥ぎ取っていく。細身のスラックスを下着ごと果物の皮でも剥くようにずるりと引き剥いで、その脚の間に身体を割り入れる。
 少し迷って、その両脚は己の肩に引っかけるようにして抱え上げてしまうことにした。
 首に絡めた脚を支点に首投げをキメられたことを思うと多少不安はなるものの、がっつり体重をかけて抑え込んでしまえば勝ち確なところはある。
 いくら以蔵が腕ッぷしの強い男だとしても、体格およびウェイトに関しては龍馬の方が勝っている。この体勢まで持ち込んでしまえば、勝ったようなものだ。
 まあ、以蔵に意識があればここまで持ち込んでも殴る蹴る引っ掻く噛みつくの抵抗は避けられないわけなのだが。
 露わになった以蔵の下肢に、そろりと手を這わせる。
 男の象徴たる逸物ではなくその後ろ、後孔を指腹で撫でる。
 知ってはいたものの、ぬちゃ、と濡れた感触が返ってくるのに口元が笑みに緩んで、は、と熱く煮え滾ったような息が零れ落ちた。
 龍馬が来るとわかっていて、自分で用意しておいてくれたのだろう。
 あんなに凶暴に笑って、牙を剥いて、抱かれてなどやるものかよと大暴れしておいて、その服を剥ぎ取ってしまえばこうして抱かれるための用意をしていてくれるのだと思えば目の前が赤く染まるほどの興奮を覚えた。
 は、と自然と息が上がる。
 ずるりとぬかるむ後孔に中指を差し込む。
 十分に解されているのか、以蔵の後孔は柔らかにすんなりと龍馬の指を呑んだ。

「……、まっこと気持ち良さそうじゃの」

 大暴れしたせいか、以蔵の身体はどこも熱をもっている。
 それは龍馬の指を食む隘路も代わらない。
 とろとろとたっぷりのローションでぬかるみながらも、健気に指を絞める肉筒の感触にうっとりと龍馬は眦を下げる。
 本来ならば龍馬は手ずから以蔵を蕩けさせる過程を厭うような男ではない。
 むしろ自ら丁寧に熱を高めて、咲き誇る快楽の花を愛おしみたいと思う質だ。
 が、肉体言語が先立つ以蔵とのセックスともなるとなかなかそうもいかない。
 意識を刈り取ってから丁寧に下ごしらえを行うか、それかもういっそ暴力的に抑え込んだら速攻で突っ込むかの二択ぐらいしか残されていない。
 後者は駄目だ。
 それは以蔵の負担が大きすぎる。
 一度試しにやってみようという話にはなったのだが、お互いに後悔しかなかった。
 以蔵はしばらく真っ当に動けなくなったし、龍馬だって元々以蔵を傷つけたかったわけではないのだ。あれは肉体言語による対話を超えた暴力で、強姦ごっこではなく、限りなく本物の強姦に近かった。
 どれぐらい酷かったかというと、やろうと言い出した以蔵が龍馬に対してすまざったと謝ったレベルである。それぐらい龍馬は以蔵を傷つけてしまったし、龍馬自身も以蔵を傷つけたことで傷ついた。
 それで反省したからこその、前準備だ。
 だから、端から見れば殺しあいの果ての強姦に見えたとしたってこれは愛のあるセックスだし、殴り合いの刃状沙汰も愛撫であり前戯の一種だ。

「以蔵さん、おきぃや」

 そっと前屈みになって、未だ虚ろに焦点の定まらない双眸を半ば隠す瞼に柔く口づける。ちゅ、ちゅ、と目元に、額に、頬にと口づけながらも、以蔵の胎に忍ばせた指はくちゅくちゅと以蔵の前立腺を柔く撫でつけている。
 意識はなくとも身体は素直に快楽を拾っているのか、淡く開いた唇の隙間からてろりと濡れた舌が零れ、あ、あ、と小さく気持ち良さそうな声が零れ始めた。
 誘われるように零れた舌を絡めとり、唇の中に舌で押し戻してやる。
 そのまま腔内を貪りながら中を丹念に愛でてやっていれば、やがてひくりと舌先が震えた。押しのけるように、胸元に手が押し当てられる。
 ちょうど良い。

「起きた?」

 口元をべたべたに汚すどちらのものともつかぬ唾液をべろりと舐め拭ってやりながら問う。

「……っ、~~~ッ、おま、ァッ、」

 何か言いかけたところで意地悪くぐいと指腹で撫で育てた痼りを押し上げてやれば、言葉尻が甘く掠れて跳ね上がる。
 もう十分だろう。
 やわやわと絡み付く肉壁を擽るようにしながら指を抜いていけば、胸を押しのけようとしていたはずの手指が縋るように龍馬シャツを手繰り、腰が浮くほどに反った背が快楽を訴えてびくびくと震える。
 仰け反った喉に唇を寄せ、ぐ、と歯を押し込んだ。

「アッ、やめ……ッ、りょ、……ッ、」
「やめんよ、」

 歯形のついた喉を、舌腹であやすように撫で、また噛み付く。
 幾重にも刻まれる歯形はきっとしばらくは残るだろう。
 は、と熱く火照った吐息を吐きながら、龍馬は片手で自らの性肉を軽くしごいて指を引き抜いたばかりの後孔に押し当てる。

「……、挿れるきにね」

 今から犯すのだと声にだして宣言してから、ぐ、と一息に腰を進める。
 ぐぷぐぷと濡れた音がして、熱く蕩けた肉壁が絡み付く快感に腰から下が蕩けてしまうかのような心地がした。ぐ、ぐ、と深く、深く、恋人の肉を穿つ。どこまでも受け入れて欲しいという慾をぶつけるようにして、軽く腰を揺すりたてながら深くを暴く。

「……ッ、ぁ、あ、ふか……ッ、も、むり、はいらん!」
「入るよ、だいじょうぶ」

 うっそりと口元に笑みを浮かべて言い聞かせる。
 安心させるように優しく微笑んだつもりだったのに、何故だか以蔵にはひ、と息を呑まれてしまった。そんなにも見られない顔をしていただろうか。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」

 ちゅ、ちゅ、と赤黒い歯形の浮いた喉元に何度も唇を寄せて宥めながらも、ぐりぐりと奥を虐める腰は止めてやらない。止めてやれない。
 ひ、ひ、と喘ぐ喉の振動が唇に直接感じられるのにたまらなくそそられる。
 獲物を仕留める寸前、その最期の息吹を感じるような興奮がそこにはあった。
 もちろん、殺してしまうつもりなど欠片もないのだけれど。

「いぞうさん……」

 慾の蕩けた熱ぽい声音で名前を呼ぶ。

「りょ、……ァ、!」

 仰け反って、逃げたげにばたついた以蔵の指先が、大暴れした振動で机から転がり落ちたらしいクリスタルの灰皿にひっかかった。あ、まずい、と思うより先に、振り上げられたそれががづんと脳天に叩き付けられる。
 ぐらぐらと視界が揺れて思わず以蔵の顔を脇に手をついて身体を支えようとして――そのせいで、ぐぷんと龍馬の性肉の先端が以蔵の最奥にハマりこんでしまったのだから、まあこれはある意味痛み分けといっても良いのではないだろうかと思う。

「――――ッ!」

 強烈な衝撃に絶頂に押し上げられて、以蔵の身体が断末魔めいてびくびくと跳ねる。
 そんな快楽を逃すための条件反射めいた戦慄きすらのっしりとのしかかって封じ込めつつ、ゆすゆすと腰を送ってハマりこんだ最奥を捏ねる。
 その度に以蔵が甘ったるく高い悲鳴をあげるものだから、嗚呼本当にたまらない。
 とろりと額を何か熱く滑ったものが滑り落ちていったような気もしたが、そんなのはもはや些事だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 お互いにもう指先一つ動かすのも億劫だというほどに貪りあった果て。
 ごろりと二人床に転がったまま、ぼそぼそと掠れた声で呻きあう。

「あのね以蔵さん」
「……おん」
「ぼく、わりと頭は丈夫な方なんだけどあんなぱかぱか鈍器で殴られたらそのうち死ぬと思う」
「……ひとのけつんなか好き放題掘りたくりよってわしも死ぬかと思ったきにな」
「…………」
「…………」
「…………あのね、以蔵さん」
「……おん」
「…………一度ぐらい血をみずに普通に睦み合いたいんだけど」
「……………………」

 龍馬の腕枕に頭を懐かせた以蔵がふひひ、と小さく笑う。
 ぐりと犬の仔が懐くような所作で龍馬にすり寄って。

「でもおまん、ああいうのが一等興奮するろう」
「――――――」

 否定はできなかった。

 

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