ばり。
ぼりり。
静かな部屋にせんべいをかじる音が響く。
普段は多くの英霊を導くマスターとして気をはり、しゃんと伸ばされている背中も今だけはだらりと緩やかに丸くなっている。
「ねえ、以蔵さん」
「何じゃ」
「以蔵さんって、面食いじゃん?」
「――――」
当たり前のように同意を求められて、以蔵は思わず眉間に皺を寄せる。
二人こたつに入って向かい合い、おせんべいをぽりぽりと囓る怠惰なひとときだ。
「別にほがなことは」
「あるでしょ」
ずっぱり言い切られて、あまりにもその言葉が断言するものだから以蔵はなんだかそうかもしれないという気になって以蔵はちょろりと視線を泳がせる。
「……ほうかもしらんが。きれいなもんを見るのが好きゆうのは普通のことじゃろ」
「まあね。それでちょっと聞きたいんだけど」
「おん?」
「カルデアの英霊たち顔面偏差値高すぎない?」
「わかる」
マスターの力強い言葉に、以蔵は打てば響くというように応えた。
このカルデアには多くのサーヴァントがいるが。
その誰もがひたすら顔が良いのである。
「以蔵さんは誰が一番顔が良いと思う……?」
「わしは――……」
うーんと首をひねったところで、ぽ、と以蔵の頭に浮かんだのは幼馴染みの男だった。
が、ふるりと尾っぽのような髪を揺らして頭を振る。
あの男は確かに顔は良いが、カルデアの中で一番か、と言われると決してそういうわけではない。
「おまんはどう思うがじゃ」
「私は―――……、その」
「おん」
「龍馬さんぐらいが、一番好きかなあ」
「――――」
マスターの言葉に思わず、以蔵は複雑な表情を浮かべる。
わかり手の出現に喜ばしく思うような。
わかられてしまったことを面白くないと思うような。
「…………あいつは、今は顔が良い男みたいに見えるかもしらんが、7才まで寝小便たれてぐずぐず泣いちょったような男じゃぞ」
「安心して以蔵さん、そんな牽制しなくても龍馬さん取る気なんかないから」
「べ、別にわしは!」
思わず声を荒げかけたところで、向かい側でにんまりと笑うマスターと視線がばちりと重なる。
なんだかそれ以上は何を言っても墓穴を掘るような気がして、以蔵はばりんと手元のせんべいを囓った。ばり。ばりぼりり。
「……おまんの周りには、もっとえい男もおるじゃろ。ふぁらお、とか」
「あの辺はもう顔が良いとか越えて神々しいから無理」
「わかる」
わかりみが溢れた。
以蔵だって、顔が良いものは男女問わずに好ましいと思う。
眺めていて良い気持ちがするからだ。
だが、以蔵が自分で口にだしたファラオなどは、どうにも顔が良すぎて以蔵のささやかなだと自分でも自覚している脳みそではもはや認識することすら難しいのだ。
あれはなんなのだ。
ひたすら顔が良すぎて、もう何か以蔵とは違う何かだ。
同じジャンルにはいない。
同じ区分にはいない何かだ。
顔が良い、という言葉の範疇にいない。
「だから龍馬さんぐらいが……、っていうと失礼なんだけど。龍馬さんが一番格好良く見えるんだよね。こう、私たちが認識できる中での一番良い部類の顔、というか」
「わかる」
先ほどから、わかる、としか相づちを重ねていない以蔵だが、実際それしか言葉が出てこないのだから仕方がない。
「あいつはほんに顔がえい……」
「うん、いいよね……」
しみじみと頷きあう。
庶民派の二人が顔が良いと認識できる中での最上の顔をしているのが坂本龍馬という男なのだ。
と。
そんなタイミングで、コン、とドアが鳴って話題の主が顔を出した。
「マスター、明日のレイシフトのことで相談があるんだけど今ちょっといいかい……って、なんだ、以蔵さんもいたの」
「ッ!」
「!!」
条件反射めいて、二人の顔がじんわりと赤くなる。
散々顔が良いと褒めていた当人が突如現れたのだから仕方ない。
二人の予想外の反応に、えっ、えっ、と戸惑ったように龍馬は声をあげ、さらに何か気恥ずかしい場面に居合わせてしまったということは悟ったのか、つられたように龍馬の頬までじんわりと赤く染まる。
好みの顔をした男にそんな顔をされたらもうどうしようもない。
「あー!」
「あー!」
以蔵とマスターは、二人そろって悲鳴めいた声を上げて突っ伏した。
