さあさあと波の音がする。
空から注ぐ光は真白で、同じ色をした砂がさらさらと足元には広がっている。
空も台地もあまりにも白くて、目が眩んでしまいそうだ。
そんな最果ての海辺で、男が二人向かい合っていた。
もはや時の流れすら超えて。
どこでもないどこかの海辺で、いつでもないいつかの坂本龍馬と岡田以蔵が見つめ合う。
先に目をそらしたのは以蔵のほうだった。
胸を潰すようなやるせなさに急き立てられるように、ぽつりと小さく吐き捨てる。
「…………どうせおまんは、わしとその世界とやらを選べ言われたら、わしのことなんぞおいていく癖に」
今はこうして目の前にいても。
昔のように仲良くしてほしいと、まるで心の底から願うように口にしたとしても。
この男は、いざというときには厭になるほど鮮やかに覚悟を決めてすべてを擲ってしまえるのだということを以蔵は誰よりもよく知っている。
そんな耳に痛い言葉に、龍馬は「はは」と小さく困ったような笑いを零した。
以蔵の言葉は坂本龍馬という男のありようを見通している。
その理解は決して間違っていない。
眉尻を下げて、龍馬は白手套に包まれた指先で、かり、とこめかみをかく。
「あのね、以蔵さん」
「……なんじゃ」
どうせ、いいわけなのだと思った。
以蔵さんのことは大事だけども、それでも世界を見捨てるわけにはいかないのだと。
そんないいわけを、生真面目に、誠実に、優しく子どもに言い含めるように語るのだと。
けれど、そんな以蔵の予想は龍馬の次の言葉に裏切られた。
「僕は、選ばないよ」
「――――は?」
間の抜けた声が零れる。
選ばない。
選ばないと言ったかこの男。
「僕はもう、選ばない。僕は、どっちも欲しい」
「お、おまん、何を」
「世界を選んで以蔵さんを失っても、後悔しかない。でも」
ふ、と視線を持ち上げて、幼馴染みの、昔は泣き虫だったはずの男はその黒々とした双眸に強い慾を滲ませて悪戯ぽく笑って見せた。
「やけんど、世界を選ばんわしなんぞ以蔵さんもお断りじゃろう」
「っ、は」
思わず、以蔵の口からも笑いが零れる。
「やき、選ぶなら両方じゃ」
強欲に、快活に、笑って男が言い切る。
以蔵の手を取って、ぐいと引き寄せた龍馬があんまりにも愉しそうに笑うものだから。
「このごうつくばり」
応じる以蔵も、やっぱり笑った。
