二人が一緒に暮らしているのがバレる話。

 それはドラマの宣伝を兼ねて出演したバラエティ番組の企画でのことだった。
 ずばりテーマは「今をときめくイケメン俳優、坂本龍馬と岡田以蔵、この二人が恋人だとしたらどんなシチュエーションでイチャイチャしたい!?」である。
 番組ホームページと街頭インタビューの両方で様々な年齢層の女性たちにアンケートをとった結果を本人たちの目の前で発表するという、なかなかに気恥ずかしい企画だ。
 まずはセットのソファに腰掛けた龍馬と以蔵の前に、様々なシチュエーションの書かれたパネルが運ばれてくる。

「夜景な綺麗な高層レストランでプロポーズ……」

 パネルに書かれていたお題を読み上げて、ほおん、と以蔵が呟く。

「坂本さん似合いそうですよねえ」
「あー……そがあな気障ったらしいのがこいたあはよぉく似合うちや」
「以蔵さんそれ褒めてる???」

 という風に、パネルにあるお題を話題にして盛り上がるトーク番組である。
 ちなみに一番人気のあったシチュエーションは再現VTRが作られるという仕様だ。
 ただし、残念ながら本人による再現ではない。
 その雰囲気こそよく似せているものの決して本人ではないパチモノ感も、またその番組の特色であり、面白いとよく話題になっている。
 ある種ご本人様を目の前にしたモノマネでもある。
 そんなわけで龍馬と以蔵としては、どんな風に「最高に格好良い自分たちを演じてもらえるのか」を楽しみにゲストとしてやってきたところがある。

「普段はそれぞれゲストの方々にあった再現VTRを作るんですけど、今回は折角お二人がコンビで遊びにきてくれたので」
「まちぃ、別にわしらはコンビやなかぞ」
「あれ、違いました?」
「違いますよ」

 以蔵の半眼のツッコミに、龍馬もやんわりとした苦笑で手をふって見せる。
 ドラマの宣伝を兼ねてあちこちのバラエティ番組に出演するようになって以来、その仲睦まじさからすっかりコンビ扱いされている龍馬と以蔵である。
 実際には所属している事務所すら違うのだが。

「まあ、そんなわけで」
「どんなわけじゃ」
「お二人に関しては同じテーマでVTRを作らせてもらいました!」

 以蔵のツッコミをことごとくスルーして番組を進める司会の胆力はなかなかだ。
 司会も含めた三人の掛け合いに、スタジオの観客席からはくすくすと笑い声が漏れている。

「ほおん……? つまり、こいたあのせいでわしまで気障ったらしいことをさせられちょるちいうわけか?」
「まって。まだ気障だとは決まってない」
「決まっちょるわ、どうせおまんのことやき、バスローブ着てワイングラス揺らしとるんじゃ」
「そのイメージどこから来たの!? 僕そんなことしたことないよね!? あ、でも以蔵さんがそれやってるところはものすごく見たい」

 途中で自らの欲望に唐突に正直になる龍馬だった。
 そんな龍馬の足を横からぎゅむりと以蔵が踏む。
 意気のあった二人のやりとりにけらけらと笑っていた司会が、やっぱりお二人はコンビなのでは、なんてコメントを挟みながらも番組を進めていく。

「まあ実際坂本さんには結構気障なシチュエーションも集まっていたんですけど……」
「集まってたんだ……」
「集まってましたね」
「ほらな」

 ふふんと何故か以蔵が胸を張る。

「最終的には、わりと現実的なシチュエーションに一番票が入りましたね」
「へえ、どんなシチュエーションなんだろ」

 わくわくと瞳を輝かせて前のめりに実を乗り出す龍馬に、司会が楽しそうにパネルに貼られていたシートを捲ってその一位のシチュエーションを明らかにする。

「ずばりこちら、『朝、坂本龍馬に起こして欲しい』というものになりました!」

 賑やかな効果音が流れ、観客席の人々からは拍手が起こる。
 が、当人の龍馬及びその隣の以蔵はいまいちピンと来ていない様子で首を傾げている。

「朝起こす……て、それだけで良いの?」
「ええとですね、アンケートでは何故それに投票したのかっていうコメントも一緒に募集しているんですけども……、坂本さんに起こしてもらったらその日一日頑張れそう、だとか、爽やかな坂本さんには朝の印象が強いから、などという声が多かったですね。おそらく、最近坂本さんが出演されていた洗濯洗剤のコマーシャルの印象が強いんじゃないでしょうか」
「あー、あれかあ!」

 ぽん、と龍馬が手を叩く。
 最近、そんなコマーシャルを撮ったのだ。
 窓からは真っ青な空が見えている中、白を基調にした部屋の中で、真っ白なパンツに窓の外の青空を彷彿とさせる鮮やかな青のシャツを着て、「混ざらない、クリアな青と白」なんて言うやつを。
 確か白ものと色ものを一緒に洗っても色落ちしないぞ、ということを売りにした洗濯洗剤のコマーシャルだった。
 白のスラックスに青のシャツだなんて、抑止力として過ごしたいつかの日々を思い出す組み合わせに思わず龍馬は最初企画を持ち込まれた段階で目をぱちくりとさせてしまったのだけれども、酒の肴に以蔵相手に語り聞かせたところ、「あがな格好洗濯洗剤のCMでもなければ着んろ」と真顔で言われてしまった。
 言われてみれば、確かにそうだ。
 龍馬にとっては海軍への憧れと、信念への潔癖さ、汚れやすさ故の争いごとへの忌避感などをその色で表した霊衣であったのだけれども――…霊体化リセットが使えないことを前提に考えたならば、なかなか勇気の要る格好であったと自分でも思う。
 特に龍馬はそれほど器用なタチではない。
 あの格好でカレーうどんを無事に食べきることが出来るかと問われたならば、静かに首を横に振る。間違いない。
 あの色の組み合わせ自体気に入っていたので、白と青は今世でも龍馬は好んで取り入れがちではあるのだが、洗濯担当の以蔵には毎回嫌な顔をされる。
 その一方、テレビで放映され始めたそのコマーシャルを見て、以蔵が懐かしくも眩しい何かを見てしまったかのように双眸をほそりと細める顔なども、実はこっそり見て知っていたりもするのだけれど。
 
「というわけで、今回はゲストのお二人をカレシ役に、『朝/起こす』というシチュエーションでファンの皆様の妄想シーンを再現してみました!」

 司会の言葉に、観客席からは期待に満ちた拍手が湧き起こる。
 はてさて、どんな風に演じてくれたのだろうとわくわくする気持ちで龍馬もVTRを覗き混んで――
 
 
 ■□■
 
 VTRは、女性がベッドの中で目覚めるところから始まった。
 ぅ、ん、と小さく声をあげて身じろいで、女性がうっすらと瞼を持ち上げる。
 隣にいたはずのぬくもりを探してその腕が空っぽのシーツの表面を撫でる。
「……、りょうま、さん?」
 ゆっくりと女性が身体を起こす。
 その視線の先の窓辺に、彼女が探していた男がいる。
 早朝特有のまだ少し色の薄い澄んだ青をぼんやりと眺めながら、温かな湯気をくゆらせるコーヒーカップを傾ける男が。
 窓の外に広がる青よりも少し色の濃い同じ色のシャツをラフに着崩して、無造作に片手はポケットに親指を引っかけた立ち姿は随分と絵になる。
 ああ格好良いな、と見惚れるように女性の双眸が細くなる。
 と、そんな視線に気付いたように窓辺に立つ男の視線が彼女へと向いた。
 ふっと柔らかな笑みが口元に浮かぶ。
「君も飲む?」
 コーヒーカップを片手に、男がゆるりとベッドへと近づいてきて――きしりとベッドの軋む音が静かな部屋に響いたところで、映像は終わった。
 
 ■□■

「う、わあ」

 VTRが終わり、画面がスタジオに戻ると同時に龍馬は思わずそんな声をあげてしまっていた。
 嫌だったわけではない。
 再現VTRを演じてくれていた俳優は雰囲気を限りなく龍馬に寄せようとしてくれていたし、よく特徴を捉えているな、と感心もした。
 全体的にとても格好良く仕上がっていた。
 けれど、だからこそどうにも気恥ずかしい。
 『坂本龍馬』を以蔵に演じられたのとはまた違った恥ずかしさだ。
 なんというか、これはちょっと、居たたまれなさに近い。
 何故なら。

「……以蔵さん、笑いすぎ」

 隣でほとんどテーブルに突っ伏すかのように身体を折ってひくひくと肩を震わせてわろている幼馴染みがいたりするからである。
 半眼で龍馬は以蔵を小突いたりするものの効果はない。
 司会や観客たちは今のVTRに対する二人のリアクションに不思議そうに首を傾げている。
 龍馬が照れるのはまだわかる。
 だが、以蔵は何にここまで笑っているというのか。

「ええと、岡田さん?」
「き、気にせんでください」

 ふくくくく、と未だに笑いの名残に目元を涙で濡らしながら、以蔵が少しだけ顔を上げて言う。
 ちらりと司会がコメントを求めるように龍馬にも視線を流してくるが、今のところはノーコメントを決め込みたい。
 現状、あまりに龍馬が不利だ。
 今のVTRについて触れるならば、以蔵バージョンを見てからにしたい。
 龍馬だけが理想と現実の乖離についてをバラされるのは大変面白くない。
 やるなら以蔵さんも巻き添えにしちゃるきね、という視線を隣の男に向けてはみるものの、未だひぃひぃと楽しそうに笑っている相手にはどれぐらい通じたものなのだか。

「……えーっと、その、岡田さんは大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。次いきましょう、次。ぼく、以蔵さんの恰好良い再現VTR楽しみにしてきたんですよねえ!」

 さあさあどんどん進めましょうと促せば、司会は怪訝そうにしながらもそれでは次のVTRをどうぞ、と首を捻りながらも番組を進めてくれた。
 
 □■□

 とんとんとん、と果物を切る手元のアップからVTRは始まった。
 窓から差し込む光はすでに明るく強く、日中であることがわかる。
 チン、とトーストの鳴る音がして、果物を切っていた女性が手を止める。
 トーストを皿に移して、果物を盛り付け、それから時計へと視線をやる。
 時計の示している時刻は、11時過ぎ。
 そろそろ昼にもなろうという頃合いだ。
 もう、困ったわね、というような、それでいて甘い幸福の滲む笑みを口元に浮かべて女性はかるく手をゆすぐと、エプロンで手をふきながらパタパタと寝室へと向かう。
「以蔵くん、朝だよ」
 声をかけると、こんもりと盛り上がったベッドの主がシーツの中で微かに身じろぐ気配がした。
 ぺろりと内側から微かにシーツがめくれて、黒の癖ッ毛を枕に広げる男が片目を覗かせる。
「以蔵くん、もう起きないと。朝ごはん、できてるよ」
 声をかけながら、女性が手を伸ばして彼の髪に触れる。
 優しく慈しむように撫でるその手を、シーツの中から伸びてきた無骨な男の手が捕まえる。
「以蔵くん……?」
「べっぴんさんがキスしてくれた起きるき」
「きゃっ」
 そのままぐいと手を引かれてバランスを崩した女性がずるりとシーツの中へと引き寄せられていき――というところで映像は終わった。
 
 □■□
 
「以蔵さんの恰好よくない???」
「あん役者、土佐弁がなかなか上手いのお」

 さすがに自分のシチュエーション再現VTRはじっくり見たかったのか、以蔵も身体を起こしている。
 まばらに髭のちらついた顎先をさすりながら、自分役を演じた役者についてのコメントをのんびりと漏らす様子はどこか嬉し気だ。
 恰好よく演じてもらえて満足している、というところか。
 自分のイメージからのシチュエーション、ということで自分とは違うと割り切っているものらしい。

「どうですか、ご自分のイメージ妄想シチュを見ての感想は!」
「えいんやないか? わしもかわえい彼女に起こされてみたいもんやのお」
「あ、ではああいうシチュエーション、お嫌いではない?」
「嫌いじゃあないぜよ」
「……でもなあ」

 えいえい、と満足そうに頷く以蔵の隣で、龍馬がぽしょりと口を開いた。

「以蔵さん相手にあのシチュやろうとしたら、朝の四時くらいに起きないといけないっていうのが一番の問題だよね」
「えっ」
「以蔵さん、ものすごく早起きだから。寝坊とかほとんどしたことないんじゃないかなあ……ねえ、以蔵さん」
「……そう、やのう」

 龍馬の言葉に、以蔵自身も頷く。
 よほど朝まで深酒していたというわけでもない限り、自然と朝には目が覚めるのだ。
 それから以蔵は意地悪くにんまりと笑った。
 げ、と龍馬が顔をしかめるより先に、言う。

「まあ、それ言うたらさっきのこいたあの再現VTRもなかなか難しいとは思いますけんど」

 ニチャアと思い出し笑いめいて、によによと以蔵は楽しそうに笑っている。

「ちょ、ちょっと以蔵さん!」
「それは岡田さん、どういうことなんです?」

 龍馬が止めるよりも、司会が食いつくほうが早かった。

「こいたあはな、昔っから朝に滅法弱いんじゃ」
「えっ、そうなんですか?」
「……お恥ずかしながら」

 へにゃあと眉尻を下げて、気恥ずかしそうにしながら龍馬は認める。
 以蔵と違って、一度寝入るとなかなか目覚めがよろしくないのだ。
 決まった時間に起きようと思ったならば、目覚まし時計を三つほど仕掛けなければ起きられる自信がない。
 というか、目覚ましを三つしかけた上で、最終的には目覚ましの音がうるさいと殴りこんできた以蔵に起こされるのが定番である。
 
「実際のこいたあの寝汚さを知っちょるとどうもさっきのが面白くて面白くて」

 ひひひ、と以蔵の唇から意地の悪い笑い声が零れる。

「えいこと教えちゃろうか」
「え、なんですか知りたいです」
「以蔵さん!」

 慌てて龍馬は以蔵を取り押さえて物理的な口封じを施そうと試みるものの、それよりも先に以蔵はひょいとソファから立ち上がって逃げていく。
 そして、龍馬の手が届かない距離まで逃げたのち、楽しそうに言葉を続けた。

「こいたあがな、あんまりにも寝汚いもんで、放っちょいたらどこまで寝るつもりなんか試してみようと思ったことがあってな」
「い、以蔵さん!」
「夕方ころにな、一度起きてきて。なんだ、まだ夜じゃない、寝なきゃ、て呟いてまた寝に戻って、次の日の昼前に起きてきて今日の僕は早起きでは、てドヤ顔しちょったぞ」
「もう!」

 以蔵の暴露話に、司会はもちろん観客席までがドッと笑いに包まれる。
 それはもちろん龍馬を小馬鹿にするような悪意に満ちたようなものではなく、目の前で行われるいかにも仲睦まじげなじゃれあいのようなやり取りだったり、理想の坂本龍馬とはかけ離れつつもそれはそれで魅力的な、人間らしい弱点を抱えた龍馬への微笑ましさから零れた笑いではあったのだけれども。

「ふふ、それはさすがに寝すぎですね。でも坂本さん、きっとお疲れだったのでは?」
「こいたあ昔からそうじゃき」

 司会のフォローですら横合いから蹴っ飛ばす容赦のなさに、気恥ずかしさに目元をうっすら赤く染めた龍馬がぎろりと以蔵を睨みつけた。

「僕のことばっかりバラしてるけど、以蔵さんだって寝るのめちゃくちゃ早くて、シンデレラタイムどころかこの前一緒に飲もうって言ってたのに僕がつまみ取りに行ってる間に寝ちゃってたじゃない!」
「かー! 疲れてただけですう! そういうおまんじゃってわしん隣で寝ちょったろう!」
「以蔵さん起きないかなーと思いながら飲んでたら寝ちゃっただけですー!」

 突然始まる子どもの喧嘩めいた口喧嘩に、司会および観客席はぽかーんとなる。
 というか、先ほどから皆少し、疑問ではあったのだ。
 岡田以蔵、坂本龍馬の生態に詳しすぎでは?
 幼馴染の失敗談を知っているというよりも、現在進行形でその生態を誰よりも近くで観察できる距離にいるかのように聞こえているのだけれども大丈夫か。その解釈であっているのか。だとしたらば結構な爆弾情報だぞ、というような。
 聞くのが怖い。
 けれど聞かずにはいられないという気持ちで、司会や観客たちがごくりと固唾をのんで二人の賑やかな口喧嘩を聞き続ける。
 
「はあ!? 飲んでたら、ちゅうことはやっぱりおまん一人で飲んだんじゃな!?」
「あッ」

 失言に気づいた、というように龍馬が口元に手をやる。
 が、以蔵は止まらない。

「次の日ゴミ出そうとしたら酒瓶が一本多かったきおかしいとは思っちょったんじゃこん裏切りモンが! なあにが美味しそうなお酒が手に入ったから一緒に飲もうよ、じゃ!!」

 次の日。
 ゴミを出す。
 このあたりで、司会や観客の脳裏には「同棲」などというワードが飛び交い始めた。
 「同居」ではなく「同棲」であるところがミソである。
 龍馬の口封じを避けてソファから距離をとっていたはずの以蔵がずんずんとソファまで戻ってくると、不機嫌そうにどしんと腰を下ろす。
 ついでに緩く片足を持ち上げて龍馬の腰を足蹴にし始めた。
 げし。
 げしげしげしげし。 
 いたい、いたいよ以蔵さん、と情けない悲鳴をあげつつも、龍馬の口元は笑っている。
 むしろ抜け駆けしたことがバレてしまったことにへにゃりと申訳なさそうに眉尻を下げて、自分を蹴る以蔵の足を捕まえてよいしょと膝上に固定する。
 ますます周囲の「一体何を見せられているんだ感」が増すわけだが、その辺残念ながらこの二人はどこまでもマイペースである。
 英霊時代においても、何度マスターがこの幼馴染組の距離感に頭を抱えてきたことか。

「どうどう落ち着いて以蔵さん」
「じゃかあしいわ! 犬扱いしな!」
「まあまあ、ほら、ちゃんと新しくもう一本買ってきてあるから機嫌なおしてよ」
「そういうところがこざかしくて嫌いじゃ」
「そう言わんでよ、にゃあ」

 ざわり。
 観客席が動揺に揺れる。
 これまでにも龍馬が以蔵相手に土佐弁を繰り出すシーンというのは何度かテレビでも放映されてきているのだが、生で聞くその響きの威力ときたら。
 甘えるような、穏やかな低音が優しく、ひたすら優しく言い聞かせるように響くのだ。

「今晩あたり二人で飲みなおせばえいがよ、なんなら帰りに以蔵さんが好きそうな酒、いくらか買うちゃるきに。な?」
「………………」

 坂本龍馬、酒で懐柔しにかかったぞ、という顔で観客席の人々が顔を見合わせる。
 というか。
 帰りに酒を買ってやるって。
 帰りは一緒なんですか。
 今夜も一緒に飲むんですか。
 もしや帰る先も一緒なんですか。
 そんな疑惑が渦巻いていることなど知ったこっちゃねえと、むっつりと口をへの字にしていた以蔵が、拗ねたように龍馬を睨みつつ口を開く。

「男に二言はないな?」
「ないよお」
「なら許しちゃる」

 ふんす、と息を吐いて、ようやく以蔵は龍馬の膝の上から足を下ろす。
 そこで、そっとしずしずと司会が挙手をした。

「あっ」

 それを見てようやく二人は、ここが衆人環視のスタジオだったことを思い出したようだった。
 照れっと眉尻を下げてはにかむように笑う龍馬だが、どちらかというとそれは大人げない痴話喧嘩を見せてしまったことを恥じらうような顔だ。
 たぶんこれ、自分たちが爆弾発言を落としまくっていることには気づいていないな、と思った司会がそろりと口を開く。

「あの」
「いやあ、ごめんね、お恥ずかしいところをお見せしてしまって」
「悪いんは龍馬じゃ」
「いやほら、以蔵さんも謝らなきゃ」
「いえ、それはいいんですけど。その、一つ、質問がありまして」
「はい?」

 かくりと龍馬が首を傾げる。
 自分に応えられることならなんでも、と言いたげな顔だ。
 隣の以蔵は、龍馬に全部任せちゃる、というような知らんぷりを決め込んでいる。
 司会は一度すうはあ、と深呼吸を挟んで、それから思い切って問いかけた。

「もしかしなくとも、お二人、一緒に暮らしてらっしゃる?」
「「エッ」」

 なぜバレたと言いたげにあがった素っ頓狂な二人の声に、ああこいつら同居しているんだなと全人類が確信に至ったのは言うまでもない。
 まあ当然全人類というのは言いすぎだが、その場にいた司会や観客席の人間はもちろん確信したし、放送された番組を見た人間も当然のように確信に至ったので、二人はしこたま関係者各位に生ぬるい目で見られることになった。

 

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