明けぬ夜の先
そのひとが家を出るのはいつだって夜だった。 幼い妹が寝付くまでは傍にいてやり、彼女がすややかに寝入った頃に静かに身支度を整えてローマを呼びに来る。「わしは帰れんかもしれんきに」 それが彼の口癖だった。 かつての故郷の闇に沈む装束に身を包み…
龍以短編カルデア軸,ロマダイ,龍以
南国より幸いを君へ
カルデアに、夏休みが実装された。 どういうことかと思うだろう。 初めてそれを聞かされた折には、龍馬と以蔵も顔を見合わせたものだ。 お竜だけが暢気にふわふわといつものように龍馬の肩のあたりを漂っていた。 つまりは、こうだ。 ある種のストラ…
龍以短編カルデア軸,龍以
蝉時雨
じいわ、じいわと蝉が啼いている。 うだるような暑さの中を、以蔵はてくてくと歩いていた。 人ならぬ身とはいえ、生前の記憶を反映しているのはどうにも熱気が身に染みて額からはふつふつと汗が浮く。 それでも身に纏う装束を変えなかったのは、それが気…
龍以短編カルデア軸,龍以
魔力供給
ぜい、ぜい、と荒い呼吸が酷く耳障りだった。 以蔵はぐったりと木陰に身を横たえて、呼吸を整える。 古代バビロニアの、魔力と濃い緑の香りが溶け合った大気に鉄錆めいた血の匂いが広がっていく。 獣に喰い破られた腹のあたりがぐっしょりと血に濡れて気…
龍以短編カルデア軸,龍以
やりなおしの春が往く
それは新年があけてからしばらく経ってのことだった。 雀の宿で起きた騒動を解決し、マスターが意気揚々と彷徨海のベースに戻ってきたのが一週間ほど前のこと。 それからは特に新しい特異点が見つかることもなければ、新たな異聞帯に踏み込む支度も整って…
龍以短編カルデア軸,死して,龍以
7 以蔵さんと龍馬さんが互いのトラウマを抉りあいつつ大暴れする話
それは気持ちの良い晴れた日のことだった。 マスター率いるカルデア一行は、つかの間の休息を満喫していた。 本日のレイシフトの目的は特異点を解決することでも、エネミーの形となって凝った魔力を砕いて素材を回収することでもない。 ずばり、食料調達…
死してカルデア軸,龍以
6 以蔵さんとお竜さんが仲良く殺し合う話
「イゾー」「何じゃあ!?!?!?」 自室にて一人で過ごす静かなひと時。 刀の手入れをしていた以蔵は、突如かけられた声に軽く飛び上がると同時に手にしていた刀をその声の主へと向けて油断なく構えて見せた。 が、その相手がお竜だと分かればわずかに切…
死してカルデア軸,死して,龍以
5 死して先に実るものの名を、
その空間は、しぃんと耳が痛くなるほどの静寂に満ちていた。 ――ここは。 瞬きの合間に、世界が切り替わった。 真っ白なカルデアの廊下から、ひたすら黒に塗りつぶされた得体の知れない空間へと。 ぱちり、と龍馬はもう一度瞬く。 今度は何も変わら…
死してカルデア軸,死して,龍以
4 以蔵さんと龍馬さんが大暴れしたあげくどさくさ紛れに魔力供給する話
それはある日のことだった。 マスターに呼び出された龍馬と以蔵は、レイシフトか、と管制室へと向かう。 すでに昨日の段階で、明日のレイシフトよろしくね、と話は聞いていたのだ。 龍馬と以蔵はクラスこそ異なるものの、二人の戦闘スタイルは噛み合うこ…
死してカルデア軸,死して,龍以
3 カルデアのマスターが幼馴染の距離感に大いに戸惑う話。
このカルデアにおいて、マスターと呼ばれる青年は落ち着かない気持ちのままそわそわと部屋で待機していた。 以蔵に渡そうとした聖杯が暴走し、極小の特異点じみた空間を作り上げてしまってから数時間。 すでに危機は脱したと報告は受けている。 聖杯から…
死してカルデア軸,龍以
1 再会
置いていかれた。 捨てられた。 自分の価値を否定された。 見捨てられた。 薄暗い牢獄で、 引きずり出された厭になるほど明るい青空の下で、 いつだって以蔵が最後まで助けを求めたのは坂本龍馬という男だ。 ずっと心の中で、きっと龍馬だけは自分を…
死してカルデア軸,龍以