龍以

あやかし退治

「おうおう、悪いもんがこじゃんとたまりよって」 最近自殺者が多発しているという廃ビルの手前、長く癖のある黒髪を無造作に肩に流した男が言う。 灰のシャツに、黒のベストにスラックス。 日に焼けた肌と合いまり全体的に色味の暗い、闇に溶け込みそうな…

強欲な男

 さあさあと波の音がする。 空から注ぐ光は真白で、同じ色をした砂がさらさらと足元には広がっている。 空も台地もあまりにも白くて、目が眩んでしまいそうだ。 そんな最果ての海辺で、男が二人向かい合っていた。 もはや時の流れすら超えて。 どこでも…

あなたを言祝ぐやさしい言葉

 岡田以蔵が生きていた時代には、誕生日という概念はなかった。 年が明ければ皆当たり前のように一つ年をとり、生きている限り皆平等に年をとる。 よほど信心深くなければ日々昇る日にいちいち感謝するものがいないように、それは以蔵たちにとってはあんま…

海のいろ

 ざざん、ざざん、と波の音がする。 ざざん、ざざん、と打ち寄せて、さぁああああっと引いていく波の奔流に弄ばれて小さな貝が細かく砕けた砂が擦り合う音が微かに響く。 龍馬は、ぼんやりとそんな音を聞きながら海を眺めていた。 酷く澄んだ海だった。 …

紐でつないでおけ

「………………」「お竜さん、どうかした?」「……何か、喉にひっかかっているような気がする」「えええ、さっきの戦闘でかな」 レイシフトを終えて戻ってきたカルデアの食堂にて、龍馬の傍らに浮いたお竜がもにもにと口元を動かす。 んくんく、と喉が鳴る…

この世の春

「あ~……」「おっさんみたいな声出しなや」「しょうがないよ、僕もうおっさんだもの……」「……………………」 隣から向けられる「うへえ」とでも言いたげな眼差しには気づかぬふりで、龍馬はざぶざぶと両手に掬った温泉の湯で顔を洗う。 肉体的にはまだ…

窓のない部屋

 どうにも、窓がない部屋は良くないと以蔵は思っている。 酒を呑むのは楽しい。 わあわあ騒いで、ついでに賭け事の一つや二つも出来ればなお楽しい。 だが、外の様子が見えないのは、なんとはなしに息が詰まる。 もとより以蔵の生きていた頃の『家』とい…

たぐってつなぐ

 それは、瞬きの間に起きたことだった。 斬り捨てたエネミーの脇を擦り抜けた先に、まるで魔法のように突如また別のエネミーが現れたのだ。 否、魔法でもなんでもない。 単なる以蔵の手落ちだ。 大型のエネミーの気配に溶け込むようにしてその背後に潜ん…

みらいのぼくへ

 以蔵には、不思議に思うことがある。 己の古馴染みである男のことだ。「以蔵さぁん、今日はな、ドレイク船長からこの世で一等美味いちいう酒ばあ貰ったがよ、一緒に呑まんかえ?」 にこにこと嬉しそうに、以蔵から言わせればちっとも締まりのない顔をして…

バレンタイン

 この気持ちに何と名前をつけようか。 最近以蔵は、そんなことばかり考えている。 最初は友愛だった。 友としてその男のことを慕っていた。 次は憤怒だった。 友だったはずなのに自分を置いて故郷を出ていった男のことが憎たらしくて、以蔵が助けて欲し…

お花見

 カルデアは、静かで賑やかだ。 音のすべてを飲み込むような雪に囲まれ、どこもかしこも外の雪と同じ色をしてひやりと冷たい壁と床に囲まれて、どこまでも無機質に静かであると同時に、無数の人や英霊たちの鮮やかな人柄を内包して賑やかな喧噪に満ちている…

いづるかたな

「龍馬、ちっくとつきあえ」 それはある日のことだった。 レイシフトを終え、夕食を終え、お竜はカルデア長めの生き物の会なるよくわからない会合へと出かけていった後のことだ。 どうやら蛇やら竜やら、とりあえず長めの生き物に所以のある者だけが参加す…